ローラーコースター2



4 : ちょっと普段の調子が戻ってきました

「不老不死ではなくなったが、お前の傍にはいるぞ、ルルーシュ」

C.C.の宣言に、ルルーシュは怪訝な顔をする。無理もない。ルルーシュの傍にいるということは、ゼロの傍にいることと同じ。そしてゼロの立つ場所は戦場だ。そのうえルルーシュはおのれの信念から、毎度戦いの最前線へ彼は赴く。

「お前はさっそく死ぬつもりか」
ルルーシュが思わずそう訊ねてしまうのももっともである。

「安心しろ。KMFの操縦はそれなりだからな。そう容易く死ぬような真似はしないさ」

言外に、お前よりもKMFの操縦はうまいという意味が含まれているのを敏感に感じ取ったルルーシュは不機嫌に顔を歪ませるが、C.C.は取り合わなかった。






5 : 適応能力はそれなりに養われているので、腹を括ったらあとは早いです

「C.C.、ひとつ質問がある」
「なんだ?」
「コードが移行した時点で、俺の身体が成長することはなくなったのか?」
「基本的にはな。多少の変化はあるだろうが、身長はまず伸びないだろう」
「背はいいんだが……」
そう言ってルルーシュはおのれの薄い腹にぺたりと手を当てる。

「どうせなら、もっと身体を鍛えてからでも……」

ぽんとルルーシュの肩に手を置くC.C.の顔は哀れみに満ちていた。

残念なことにこの部屋にはふたりしかいないため、気にするところが違うだろうという突っ込みはどこからも入らない。






6 : カレンとロロが飛び込んできました

「ルルーシュ!」
「兄さん!」

全力で走ってきたらしいカレンとロロは、ソファに座ったままのルルーシュを目に留めるなり駆け寄って抱きついた。背もたれ越しとはいえ抱きつかれた側は苦しそうだ。なにせ声を掛ける暇もなく首を持っていかれたのだから、呼吸すらまともにできない。

「よ、良かったルルーシュ、お腹にあんな風穴明けて帰ってきて、も、もう助からないかと……」
「二度と、目、開けないんじゃないか、とか、二度と名前、呼んでくれないんじゃないかとか、嫌な想像ばっかりしちゃって……」

わあっと堰を切ったように泣き出すふたりは、もはやルルーシュに抱きついていると言うより、しがみついていると言ったほうが正しい。離してしまったらその途端に彼は帰らぬ人となるかもしれないとでも思っているのだろう。ルルーシュに巻きつく腕はあまりに強固だ。だがカレンもロロも歓喜のあまり、腕のなかの人物の様子にまで目がいかない。

「お前たちルルーシュを窒息死させる気か?」

結局、見かねたC.C.がふたりを引っぺがすまで、じわじわと甚振いたぶられる虫のようにルルーシュは力なくもがいていた。






7 : 「C.C.を庇って」の箇所を伏せてふたりに事情を説明しました

スケールの大きい話に、説明を終えてもカレンとロロはぽかんとしていた。頭の回転も良く、飲み込みの早いふたりですらこれなのだ。とてもではないが、周りみんなに打ち明けられる話ではない。
でも咲世子には話しておかねばとルルーシュがひとりあれこれ考えていたら、呆然とした表情のカレンにがしりと両肩を掴まれた。見る見るうちにカレンの目に涙が浮かぶ。

「本当に良かったじゃないルルーシュ。あなたが前線に出るたびに私いつも心配してたのよ、いつ死んでもおかしくないって。ゼロは絶対に私が守りきるけど、戦場では何が起こるか分からないもの。現に何度もあなたの乗るナイトメア大破してるし……でも、もうそんな心配もいらないのね。本当に、本当に良かったわ」

うっうっと嗚咽を漏らしながら語る内容は筋道の通ったもので、一貫性もあり、一見すると彼女も落ち着いたかのように見える。だがその実、ひどく混乱していた。なにしろ目先の戦闘のことしか見えていない。不老不死の不老の部分が頭から飛んでいるようだ。
しかし、ごく一般的人間であれば混乱して当然だとルルーシュは首肯する。こんな奇天烈な話、理解が早いほうが異常だ。むしろ妄想だ空言だと一蹴されても文句は言えない。黙ってただ話を聞いて、受け入れてくれただけでもすごいことじゃないか。暗に――絶対に死なないという保障でもない限り、あなたの腕じゃ、あんなやつらにぶち当たっていくには無理があるのよ! 当たって砕けろの言葉がシャレにならないの!――と言われ気がしたが、流しておこう。がくがくと肩を揺さぶられながら、ルルーシュはそう思った。

「そうだ、私、みんなにゼロが無事だってこと伝えに行かなきゃ!」

服の袖で乱暴に目元を拭うとカレンは風のように走り去り、室内は静けさに包まれる。C.C.の忍び笑いがやけに響いた。


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