ローラーコースター1
※R2turn15までの内容を踏まえてギャグに走りました。
※C.C.は通常運転でカレンも捕虜になってません。
※クロヴィス、ユーフェミア、シャーリーは一命を取り留めていそうなノリです。
※細かいところは気にせず軽いノリで読んでください……。
1 : ルルーシュが目を覚ましました
目を覚ましたルルーシュの目にまず入ったのは高い天井だった。ぼんやりとした思考が徐々に動き出して、それが斑鳩にあるゼロの私室の天井だということに気づく。
次に目に入ってきたのは、眉を曇らせたC.C.の顔だった。彼女はルルーシュが寝かされているソファの横に膝をついて、彼の顔を覗き込んでいた。滅多に見ることのない表情に驚き、二度三度と瞬きを繰り返す。だがここにC.C.がいるということは、黄昏の間から無事に連れ帰ることができたということだ。
「C.C.……?」
「……ああ」
その返事を聞いて、ルルーシュの身体から力が一気に抜ける。寝ぼけて夢を見ているわけではないらしい。
「よかった、無事だな……?」
まだ意識が覚醒しきっていないのか、妙にふわふわとした声でC.C.に訊ねる。すぐにでも尊大な態度で「無事に決まっているだろう、私を誰だと思っている」と答えてくると思っていたのだが、なぜだかC.C.は気まずそうに口ごもるだけだった。
まさかとは思うが怪我でもしたのだろうか。だが軽傷ならばC.C.の回復力をもってすればすぐに回復する筈だし、重傷を負っているならこうしてここに居ることはできない筈だ。それとも目に見えない負担でもかかっているのだろうか。
「おい、C.C.?」
目を伏せているC.C.を観察していたルルーシュは、そこであることに気づいた。
思わず「え?」と怪訝な声が漏れる。
前髪の隙間から覗く額に、ギアスのマークが見当たらないのだ。黄昏の間から脱出する際には確かにあった、それが。
「……………………」
「……………………」
重たい沈黙がふたりのあいだに流れる。時間にして数十秒。だが今このふたりにとってはその数十秒がとても長く感じられた。
2 : 起きぬけですが必死に頭を回転させました
「……おおまかに、4つの可能性が考えられる」
「……ほう、言ってみろ」
「ひとつ目は、単に他人には額のマークが見えなくなったというケース。ふたつ目は、C.C.からコードが消え去ったケース。三つ目と四つ目はそこから派生して、ブリタニア皇帝にコードが移行したケースと……――俺に、コードが移行したというケース」
「……お察しの通り、正解は四つ目だ」
「やっぱりか……!」
仰向けで寝かされている状態のルルーシュは、心のなかでがくりと膝を折る。負けず嫌いのルルーシュだが今回ばかりは完敗した気分だった。
3 : 何がどうなってそうなったのか説明してもらいます
「脱出に成功して、直前まで居た嚮団に戻ってきたときに運悪く頭上の瓦礫が崩壊したんだ。そしてまた運の悪いことに、むき出しになった鉄材が私目掛けて降ってきてな、阿呆なおまえは咄嗟に私を庇ったんだ。その結果……」
「その結果……?」
「お前のどてっぱらに穴があいた」
ルルーシュは短い悲鳴をあげておのれの腹に手を当てた。当然彼の腹には穴などあいていない。既に驚異的な回復力でもって完治している。
「こう、直径8センチほどの鉄の棒が、ぶすーっとおまえの腹に突き刺さってな」
身振り手振りで説明するC.C.を、ルルーシュは直視できない。直径8センチ、の段階で彼の顔は真っ青を通り越して真っ白になっていた。
「おまえはそのまま意識を失ったんだが、正直、失血性ショックで死んでいても全然おかしくない状態だった。それどころか即死でもおかしくなかった。私が思っていたよりもずっと根性あったんだな、ルルーシュ」
C.C.の揶揄も耳を素通りしていく。(失血性ショック死……それどころか即死……)と内容を反芻するだけで、返事をする余裕など少しもない。相当混乱しているのか、思考だけでなく視界までぐるぐるしてきた。
「それでも助けを呼びに行っていたのでは、その間にお前が死んでしまうことは目に見えていた。あの状況でルルーシュが助かる方法は、私のコードをお前に移行させて、不死の力を与えてしまうこと。それしか私には思いつかなかったのだが……――すまない、ルルーシュ」
黄昏の間でのひと悶着があったために、C.C.はばつが悪そうだ。俯いていたルルーシュにも、彼女の様子は空気で伝わる。
「C.C.」
「……なんだ」
「お前はこれで生身の人間になったわけだな」
「……ああ、コードを持たない私は魔女でもなんでもない。銃で頭を撃ち抜かれれば命を落とし、時間の経過とともに年を取りやがては朽ち果てる、ただの、人間だ――」
床に座り込んでいるC.C.に視線を落とすと、両腕両脚には包帯やら絆創膏やらがあり、一目で治療を施されたのだと分かる。コードを他人に譲渡した途端に自殺するのではないかという危惧を抱いていたルルーシュは、さしあたり問題は回避されたようだとほっと息をついた。
「C.C.、お前は今でも死にたいと願っているのか」
「…………………」
返事はない。それでもルルーシュは構わず続ける。
「生きろよ」
強い一言に、C.C.はゆっくりと顔をあげた。
「みすみす自分から命を手放すような真似を俺は絶対に許さないからな」
瞳が迷いで揺れるが、口は堅く閉ざされたままだ。しかしルルーシュはそんなC.C.をまえに、にやりとあくどい笑みを浮かべて言うのだった。
「もしもお前が死のうとすれば、そのたびに俺は身体を張って止めるぞ。なにせコレは不老不死の身体だからな。庇ったり守ったりするにはうってつけだ。絶対に死なない自信があるから躊躇もない」
「……それは脅しか?」
「いや、忠告だ」
C.C.は一瞬だけ目を丸くすると、「降参だ」と言って両手をあげる。自然と彼女は微笑んでいた。過去に数回だけ見たことのある、穏やかな笑みだ。「そうか」とルルーシュも微笑を返す。目元で光る涙には気づかぬふりをした。