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居残り組の日々        / ロロ+咲世子



中華連邦へ100万のゼロを率いて行ってしまった兄の部屋を、これまで離れたことのなかったロロが寂しさをこらえきれずに覗いてみると、なんとそこにはルルーシュがいた。正確に言うと、ルルーシュの変装をした咲世子が、だ。
てっきり別室か、さもなくばモニタールームにいるのではなかったのか。まさか朝っぱらに兄の部屋で咲世子を目撃するとは思ってなかったロロは動揺してつい大声を出してしまった。
「なんで咲世子が兄さんの部屋にいるの?!」
「おはようございます、ロロさま」
悠長に挨拶をする咲世子の腕には見慣れた淡い色のパジャマがかけられている。それを目に留めたロロは思わず一歩後ずさった。
「ま、まさか、この部屋のベッドで寝た……?」
「はい、僭越ながらこちらで就寝いたしました」
「………………!」
声にならない悲鳴がのどからほとばしる。ルルーシュに仕えている人間とはいえ、女が兄のベッドで睡眠を取ったことに嫉妬心を抱かないわけがない。そのうえパジャマまで本人の物を使ったのだろうか。いや、買い置きしていた新しい物かもしれない。だがどちらにしろそれはルルーシュの物なのだ。怒りでロロの身体が震えだす。
「ルルーシュさまから自分の行動を完璧にトレースして生活するように仰せつかったものですから……なにかまずかったでしょうか?」
うっとロロは詰まった。兄の言うことに間違いはない。間違いはないし、咲世子がルルーシュになりきる必要があるのも十分に分かっている。だけど、どうにも癪に障るのだ。気に食わない。咲世子にはこれっぽっちも他意などないだろうことが苛立ちに拍車をかける。
(兄さん、早く帰ってきてよ……!)
大声で叫ぶこともできず、ロロは胸のなかで吼えた。


2008.12.15  Yu.Mishima





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さあ尋問のお時間です      / ナイトオブゼロと皇帝なスザルル


「ねえルルーシュ、これどうしたの?」
がちりと肩に腕を回されホールドされた時点で危険を察知するべきだった。そうしたら、スザクが目の前に突き出してきた写真を見ようとは思わなかっただろうに。一時的なものとはいえ、ゼロレクイエムのために手を取りあったことで気が緩んでいたのだろう。ルルーシュは素直に写真に目をやった。
その結果。
素っ頓狂な悲鳴をあたりに響かせることとなった。
そこに写っていたのは、中華連邦にて朱禁城へのルート確保のためにやむをえず行った踊り子の女装姿。すでに記憶から抹消していたそれをいきなり突きつけられて、ルルーシュは目に見えてうろたえた。心の準備をしていなかった分、衝撃の度合いは大きい。そもそも撮られた覚えがまったくないのだ。一体なぜ、しかもよりによって過激な衣装で女装した写真をスザクが手にしているのか。
「なっ、どっ、この写真……!?」
「そこで拾った」
「あんの女――!」
すぐさまこれはC.C.の仕業かと結論付けたルルーシュはスザクの腕をすり抜ける。
だがしかし――
「逃げんな」
憤った勢いでそのままその場から逃げようと試みたが、あえなく失敗に終わる。乱暴に服を掴まれて首がぐっと絞まった。苦しくて喘ぐルルーシュを、しかしスザクは意に介しない。
「ルルーシュって女装するときはいつも全然肌見せないてなかったくせに、なにこの露出? 脚とかギリギリじゃないか。ちゃんと下穿いてたの? それで、この衣装で君はどんだけの数の男を誑かしてきたわけ?」
スザクの言い草にルルーシュはかちんと来たが、それよりもその凄みに圧倒されていた。頭を足で踏みつけられたときだってこんな恐怖は感じなかった。無意識に腰が引けて、足が逃げの体勢をつくる。

「ルルーシュ、話はまだ終わってないよ」

もちろん逃げられるわけもなかった。


2008.12.15  Yu.Mishima





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フェブラリー14      / シャーリー→ルルーシュ


「ル、ルル! これ貰って!」

そう言ってシャーリーは綺麗にラッピングされた袋をルルーシュに押し付ける。突然の出来事にルルーシュは困惑気味だ。もしも受け取ってくれなかったらどうしよう。そう思ったシャーリーは焦って口を開いた。

「あああのね、今日バレンタインでしょ? だから、これ! 本当はちゃんと手作りのチョコあげたいなって思ってたんだけど、人にあげられるレベルのチョコ全然作れなくて、もうバレンタイン当日に間に合わなくて、でもせっかくのバレンタインなんだから絶対何かしたくて、ね、でもでも手作りに失敗したから箱物に飛びつくのもなんか嫌で、少しは趣向を凝らしたくて、それでホットチョコにできるから市販の板チョコでもいいなって思ったんだけど、それだとあまりに味気ないじゃない? だ、だからココアにしてみたんだけど……」

なんだか余計なことまで言っちゃった気がする。シャーリーはルルーシュの反応が怖いのと恥ずかしいのとで顔をあげられない。

「手作りを諦めたのは賢明な判断だな」
「ひどい!」

料理の腕前を知っているルルーシュの容赦ない言葉に思わずシャーリーは顔をあげた。

「コレ、早速今夜ナナリーといただくよ」
「う、うん……」

にっこり微笑まれて、さっきまでの怒りはどこかへ飛んでしまう。受け取ってくれるだけで気分はもう最高だ。頬に熱が集中する。

「ありがとうシャーリー。来年は市販のものを買わなくて済むように頑張ってくれ」

それってどういう意味?

ルルーシュの言葉から傲慢さを感じる人もいるかもしれない。驕ってる、って怒っていいところかもしれない。いや、そもそもこのココアを本命とも義理とも伝えていないのだから、べつに深い意味はないという可能性もある。だがシャーリーはその言葉をルルーシュの優しさと捉えた。

「う、うん! 来年はもっと頑張るから!」

それは好きな人に対する欲目だと友達に叱られてもいい。今日はバレンタインなんだから、少しくらい良い思いをしてもいいはずだ。

私は素敵な人に恋をした!

明日からもっと料理を頑張って、そして来年には手作りのチョコを渡そう。これからのことを想像して、シャーリーの胸は弾んだ。


2009.02.14  Yu.Mishima





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うちのかわいいこ ver.Kitty      / にゃんこルルーシュと飼い主スザク


僕の可愛い可愛い子猫は、悲しいことに日中まったくその可愛い姿を見せてくれない。現在住んでいる部屋は1LDKで隠れるところなんてそうない筈なのに、どこを探しても見つからない。ひとりで住むには十分な広さだけど、夜まで隠れ続けるには狭すぎる。それほど物が溢れているわけでもないのに何で?と首を捻る日々だ。友人のひとりには「猫を飼ってるっていうのはスザクの妄想なんじゃねえ?」とまで言われてしまった。現実に僕は猫を飼っているのにそんなことまで言われてしまうのは、友人が部屋を訪れればたとえそれが日中じゃなくとっくに日が沈んだ頃でも決して姿を現さないからだろう。飼い主としては自分にだけ懐いてくれる飼い猫のそんな行動はただただ可愛いだけだけど。(でも僕以外には絶対に姿を見せないから、本当に「幻の飼い猫」という認識が友人間で広まってしまうのはいただけない)

それにしても一体どこに隠れているのか。ていうか本当に隠れているのか?

まさか部屋の外に抜け出しているのだろうか。でも駐車場に停めている僕の車の下で弱っている彼を保護して以来、外には一歩も出していない。例外は病院の定期健診だけど、それだっていつもケージに入れて連れて行っている。そもそも僕が保護するまえに相当酷い目に遭ったようだから自分から好き好んで外に行くとも思えない。だけどいくら部屋のなかをひっくり返して探しても見つけることが出来ないのも事実だ。
そこで僕は試しにおやつを床に置いてみることにした。好みにうるさいうちの猫が珍しくお気に召したジャーキーを小皿に乗せてリビングのど真ん中に置く。もしも室内に居るのだったら絶対に食欲に負けて出てくるはずだと踏んで。最初の一時間は猫缶のまえでじっと待っていたけど、いつまでもそうしている訳にもいかない。一人暮らしをしていると必然的に自分の世話は自分ですることになる。洗濯終了の音が鳴ったために渋々僕が監視を中断し、ベランダで洗濯物を干している間に小皿は見事に空になっていた。

……そんなに僕のことが嫌なのだろうか。

これにはわりと本気でショックを受けた。

日中はそんな風につれない僕の猫だけど、就寝の時間になると途端にころっと態度が変わる。必ずベッドに寝そべった僕にひっついて眠るのだ。しかもただひっつくだけではなく、僕の左脇に挟まって。
(――かわいい!)
飼い始めてから何ヶ月も経つというのに、この行動にはいまだに感動して思わず悶えてしまう。
媚び媚びに甘えてくるわけじゃない。でも、僕の左脇に収まって寝るというただそれだけのことでも、僕にとっては途轍もなくかわいいのだ。
たとえ眠かろうと、僕がまずベッドに入っていないと寝ようとしないとか、ホントどれだけかわいいんだこの子は!
そう、この猫は僕がベッドに入って寝そべっている状態にならないと寝にこない。この子にとって寝床とはベッドじゃなく僕の身体。なんかもうその事実だけで日中のすげなさは帳消しだ。

「ルルーシュ」

昼日中はいくら呼んでも顔を見せてくれないのに、寝支度を整えた状態で名前を呼ぶと、どこからともなくふらっと現れてベッドに飛び乗ってくる。そして『俺はこれからここで寝るんだから場所を空けろ』と言わんばかりに左肩を小さな前足でトントン叩いてくる。わざと左腕をぴったり脇にくっつけたままでいたら、今度はタシタシと軽くひっかいてきた。爪はきれいに切ってあるから痛いどころかくすぐったいくらいだ。
「ごめんごめん」
僕がそう言って左腕を動かすと、胴体と腕の隙間にルルーシュはするりと入り込んで身を横たえた。片手で覆えるほどの小さな頭をこてんと僕の左肩に乗っける。
「おやすみルルーシュ」
定位置についたルルーシュに就寝の挨拶をすると、ルルーシュはニャアと一声鳴いてうつらうつらし始めた。

(ああ〜かわいいなあ!)

左肩に感じる軽い重みに身悶えしそうになる衝動をなんとか抑えて(少しでも動いたらルルーシュの睡眠を妨げてしまう!)僕も眠りに就いた。


2009.03.20  Yu.Mishima





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そういうことかよ!      / 1期スザク→ルルーシュ


授業の合間の休み時間。リヴァルとルルーシュのやりとりをぼんやりと眺めていたスザクはふいに、いいなあ、と思った。気が置けない友人同士の気安い会話。ルルーシュの表情も声のトーンも、スザクに対するそれとは違う。ルルーシュは年相応な顔をリヴァルに向けている。スザクはそれが羨ましかった。
(でも、あれ、なんでだろう。なんかおかしい)
スザクは自分がルルーシュを一番の友人だと思っているのと同様に、彼もまた自分を大事に思ってくれていることを少しも疑っていない。今自分たちの距離感に微妙なものを感じ取ってしまうのは長い間離れていたせいであり、スザクに(父をこの手で殺した)後ろめたさがあるためだ。スザク自身が抱えている問題は別としても、時間の問題はこれからの時間が自然に解決してくれるとスザクは信じている。いずれは昔のような関係が築けるはずなのだ。
(早く昔みたいに遠慮のない付き合いがしたいってことなのかな?)
ルルーシュにとってリヴァルが特別な友人であることは傍目で見ていて分かる。だがそれよりもさらに自分たちはお互いが特別なのだ。ことさらリヴァルを羨ましがる必要などない。
では、なぜ。どうして。
「リヴァル!」
考えにふけっていたスザクがハッとすると、ルルーシュの手刀がリヴァルの頭に見事にきまるところだった。またしてもスザクの胸中にいいなあという思いがよぎる。いいなあ? そんな単純でシンプルな思いだっただろうか。いや、違う。それよりももっとダークな感情だった。ちりりと胸が焼けつくようなそれだった。嫉妬だ。スザクはリヴァルに嫉妬した。スザクは自分の感情の動きに驚くと同時に、別に目の前のふたりのような関係を築きたいわけではないことに気づき、さらに混乱した。
(僕はルルーシュと友達になりたいわけじゃないのか? なら、何になりたいんだ。ルルーシュとどうなりたいんだ。僕は……)

自分の思いを突然に自覚したスザクは、顔を隠すように机に突っ伏した。


2010.07.01  Yu.Mishima





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誰もいない世界      / ナナリー→ルルーシュ(turn25後)


お母さまが亡くなったあの日から、私はお兄さまの生きる理由になった。同じ母を持つただひとりの妹。足と目を悪くした哀れな妹。私をひたすら守ることでお兄さまは前を向いて歩き続けることができた。
これからだってそう。お兄さまは私がいないと生きていけない。
お兄さまにとって本当に大事なのは私だけ。私ひとりだけ。

――そう、思っていたのに……。

お兄さまは私ではなく、世界を選び取った。
お兄さまの言う世界など、私はどうでもよかったのに。

私にとっての世界はお兄さまそのもので、他人なんてどうでもよかったのに。
お兄さまはよく私のことで周りのみなさんから揶揄されていたけれど、お兄さまの私に対する愛情よりも私のお兄さまに対する愛情のほうがよっぽど重い。こんな重い愛情を表に出してしまったら、お兄さまはきっと私のような重い荷物など放り出してしまう。そう思ったから。これ以上の負担をかけたらお兄さまは私から離れていってしまうと思ったから、だから心に仕舞っていたのに……。

こんなことになるのなら、言葉にすればよかった。
聞分けが良い妹なんて演じずにいればよかった。
お兄さまの優しさに付け込めばよかった。
情に訴えればよかった。

でも、もう何もかもが遅い。だってお兄さまはもういない。
お兄さまが息を引き取ったあの瞬間から、お兄さましか存在しなかった私の世界には、もう誰もいない。


私の世界には誰もいない。


2010.09.20  Yu.Mishima





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はいはいお約束です      / ハロウィンでスザク×ルルーシュ


「トリックアンドトリート!」

ばあっと両手を広げて突然目の前に現れたスザクの顔面に、ベッドの端に座っていたルルーシュはキャンディやらチョコやらの包みを十個余り投げつけた。いくら至近距離からとは言えスザクなら余裕で避けれただろうに、お菓子はべちべちっと顔面に当たってぼとぼとと床に落ちる。
無表情のルルーシュは満足げにふんと息を漏らすと、手元の本に視線を戻した。
「ちょっとルルーシュ、君終わった気でいるみたいだけど、僕はトリックアンドトリートって言ったよね?」
床に落ちたお菓子をひとつひとつ拾い上げるスザクの不満そうな態度にルルーシュは憎々しげに「チッ」と舌打ちする。
「普段流暢に話しておいて、なぜその決まり文句のところだけカタコトで喋るんだ。いや、そもそもお前が言った言葉は間違っている」
「お菓子も貰うしイタズラもするよ!」
「横暴だろう。どちらかにしろ。Trick or treat」
「ええーじゃあこのお菓子君に返す」
「選ぶ権利はお前にはない。訪ねられた側の、すなわち俺の権利だ」
「……………………」
白いシーツを頭から被ってお化けに扮装しているらしいスザクの頬がぷくっと膨れ上がった。成人近い男のそんな仕草をルルーシュが可愛いと思えるはずもなく……。ルルーシュの半眼がスッとさらに細くなる。無言のまま再び視線を本へ向けた。
さてどの行まで読んだかとページ全体を視野に入れた瞬間――
「ぐっ……!」
突如背中に衝撃が加わりうめき声をあげる。スザクが背後から飛びついてきたのだ。そのまま背中に体重をかけられてしまい、ルルーシュは潰れた。結果的に腹と太ももで挟むことになってしまった本が地味に痛いが、それよりもルルーシュはページに折り目がついてしまっていないかと心配する。
「どけスザク! 本に変なクセがつくだろう!」
「なんでそこで本の心配をするかな……」
耳元でおもいきり溜息をつかれ、反射的にルルーシュの身体がびくっと跳ねた。スザクに身体を拘束されていなかったら飛び上がっていたかもしれない。
「まあいいや。改めて言うよ、ルルーシュ。トリックアンドトリート」
次の瞬間にはルルーシュはベッドに横倒しにされていた。もうここまで来てしまったら回避不可能だ。ルルーシュが抵抗しようとしまいと結果は同じ。
(くそ……)
それならもういっそのこと一泡吹かせてやりたい。不意に負けん気を発揮したルルーシュは上半身を少し起こし、スザクの唇に自分の唇を押し付けた。そしてすぐに顔を離し、べっと舌を出す。
特攻は成功だ。呆気にとられたスザクの顔を見て、舌を出したままニヤリと笑う。ルルーシュは完全にいい気になっていた。トリックもトリートもこれでクリアだと内心得意げに高笑いしていた。
もちろんそんな言い分が通るはずもなく。
散々な目に遭ったルルーシュは「もう二度とあんなことするか」と自分の行いを悔いた。
ちなみにこの反省が活かされたことはこれまでに一度もない。


2010.10.31  Yu.Mishima


2008.12.15-2010.10.31 Yu.Mishima