short short short 2



家族計画        / ゼロ←神楽耶



「ゼロさま、私、妻として思うんですけど」

神楽耶の唐突な「妻」発言に、ゼロの身体がびくっと揺れたのがマント越しにも分かった。

「ちょっと待ってください、その話は以前に決着がついたはず……」

珍しく焦燥を滲ませた口調のゼロに、しかし神楽耶はあっけらかんと言い放つ。

「あら、ゼロさまがその仮面をつけ続ける限り、どうしても広告塔としての妻は必要になりますわ。その場合、やはり相手は私が最適だと思うのです。ご心配なさらずとも、愛人を持つのは男の甲斐性と存じております。私が把握できる人数……そうですね、30人くらいなら」

その数字を聞いた途端、ゼロの身体が再びびくりと揺れた。

「夫の血を後世に残すことは妻としての務め……子孫繁栄も、妻としては当然の願いですし」

にっこりと天真爛漫な笑顔を向けられ、思わずゼロは視線を逸らす。しかし神楽耶は意に介さず、マントの下で震える腕を強引に自身へ引き寄せた。

「ではさっそく閨へ行きましょう!」

子孫繁栄のためにも!

「ちょ、ちょっと待ってください神楽耶さま!」
それまで必死に口を噤んでいたカレンは、くらっと傾くゼロの様子に耐えかねたのかついにストップをかける。
ふたりの少女に両腕を引っ張られてゼロが身動きできずにいるのを、三人官女のひとりであるC.C.はただ笑って見ているだけだった。



2008.05.19  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





ハント・ダウン      / ロロ→ルルーシュ


憔悴したルルーシュの様子と魘されながら呟いたうわ言、そして新総督就任のニュースを見たときの反応から、ロロはあるひとつの確信を抱いていた。
それを確かめるかのように、ことさら新総督であるナナリー皇女の存在を誇示して揺さぶりをかけると、予想通りの行動をルルーシュは取った。

逃げたのだ、大事に思っているはずの妹から。

今なら、とロロは思う。

(今なら、兄さんは僕だけの兄さんになってくれるかもしれない)

リフレインに手を出しそうなところは敢えて黙って見ていたロロは、カレンの介入によって姿を現した。ルルーシュが彼女を追いかけようとしたところに割って入ったのももちろんわざとだ。
「ロロ……」
名前を呼ぶ声に慈しみは微塵も含まれていなかったけれど、ルルーシュがその場から逃げることはなかった。故意にゆっくりとした足取りでルルーシュに近づきながら、ロロは彼を追い詰める言葉を淡々と投げかけてゆく。瞳が揺れているのがはっきりと分かった。

(追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて――そしてどうしようもなくなったら、兄さんは僕の手を取ってくれるかな)

だがそれでも押しは足りなかった。落ち込んでいたルルーシュの心は生徒会のメンバーによって息を吹き返したのだ。物陰から様子を窺っていたロロは、周りに気づかれぬように嘆息した。

(もっと、追い詰めないと)


2008.05.19  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





孤悲こい      / ロロ→ルルーシュ


責任を取って。

僕が静かにそう言うと、目の前にいた兄さんは不思議そうに目を丸くしたあと、端麗なその顔をくしゃっと歪めた。おそらく僕の言葉の真意をはかりかねているのだろう。言葉通りの意味なんだけど、と続ける。だけど余計な混乱を招いただけだったようで、兄さんは押し黙ったままじっと僕の目を見つめてきた。

簡単なことなんだ。
ただこれまでと同じように、僕を愛してくれればいい。
ほったらかしにしないで、そこらへんに捨てないで。


僕に自覚を促した、その責任を、どうか。


2008.05.24  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





機械制工業      / C.C.+ルルーシュ


「縫製が甘い」

特区日本の式典会場で使用するゼロの衣装を手にとってぽつりと呟いたルルーシュに、C.C.はこれ見よがしにため息をついた。

「我慢しろ」
「だが、これでは……」
「工場の生産ラインはこれが限界だ。夜中までやっていたら別だがな、それでは怪しまれてしまう。警察による取締りなんて入ったら、それこそすべで水の泡だ」
「分かっている、分かっているが、しかし……!」

諦めきれない体でマントを握り締めるルルーシュの手をC.C.は容赦なくぺちりとはたき、ひらりと床に落ちたマントを素早く回収する。

「せ、せめて幹部たちの分だけでも俺が繕っても」
「ルルーシュ、何度も同じことを言わせるな。すべて機械に任せておけ」
「チェックくらい」
「おまえには他にやるべきことがあるだろう」

こだわるべきポイントはそこじゃないだろうというツッコミは、もはやふたりの間には存在しない。


2008.05.28  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





問屋制家内工業      / ルルーシュ+ロロ


膨大な量のゼロの衣装を一時的に保管している倉庫の鍵をC.C.に奪われてしまい、クラブハウスに戻ってきたルルーシュはすっかりしょげていた。正確に言うと、欲求不満に陥っていた。先ほど見た十分とは言い難い縫い目が瞼の裏でちらつく。こんなことなら妥協などしなければ良かったとルルーシュは苛立ちながらチェスの駒でテーブルをコツコツとつついた。

(いっそ今からでも倉庫に向かうか。鍵などなくても俺なら開けられる……何十万という量でも、チェックくらいなら、いや、少しくらいなら直すのも)

悶々とそんなことを考えていると、同じく室内で寛いでいたロロに不思議そうに「なにかあったの?」と訊ねられる。自分を落ち着ける意味も含めて、ルルーシュは彼に事のなりゆきを話した。

「それは、いくら兄さんでも無理なんじゃない? だって最終的に100万着出来上がるわけでしょう?」

年下の少年に真面目に諭され、ルルーシュは口惜しげにぐっと口を噤む。

「ねえ、それなら僕に一着作ってよ」
「ロロに?」
「うん。僕には当日必要ないのは分かってるけど、兄さん作りたそうにしてるし、あって困るものでもないから……だめかな?」

当然のように、間髪入れず、良いに決まってるだろうと諸手を挙げたルルーシュだった。


2008.05.28  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





ハント・バウル      / ロイド+シュナイゼル


「殿下、良かったんですか〜? 彼女の暴走でゼロとの勝負がうやむやになっちゃいましたけどお」
「あれはあれで良かったんだよ。ゼロのひととなりが知れたからね」

むしろ壊してくれて助かったと微笑むシュナイゼルに、ロイドはげえっと顔を崩した。ニーナの行いのために彼の醜聞が皇族貴族間に広まることは想像に難くないが、それでも助かったと言い放つ第二皇子が、ロイドには気味悪くてしょうがない。
そんな不敬ととらえられる態度でも、ふたりの間ではいつものこと。そばに控えているカノンも口を出すことはない。

「今回の勝負はただの余興だ。勝ち負けは重要ではない。彼がどんな手を使うのかを私は知りたかっただけなんだ」
「それでぇ、どうだったんですか? ゼロは」

その質問に、シュナイゼルは一拍置いたあと華やかな笑みを浮かべる。それを見た瞬間ロイドは顔を背けて(あーらら、ご愁傷さま〜)と心のなかでひっそり呟いた。


2008.06.11  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





いってきますの口実      / ロロ(→ルルーシュ)


携帯テレビを見ながらテロだクーデターだと騒ぐシャーリーとリヴァルを横目で見ていたロロは、ふとあることに気づいた。

(これってもしかして、ピンチ?)

中華連邦で黒の騎士団が事を起こすには、時期が早い。そのうえ生中継されていたブリタニア第一皇子と国の象徴たる天子の結婚も、予定にはないハプニングである。もしかしたら本当にクーデターが起こったのかもしれない。そうなるとそれを機に騎士団も動き始めるはずだが、参列者のなかにナイトオブラウンズらがいると放送のなかで言っていた。

紅蓮可翔式に加え、インドからも性能のあがったナイトメアフレームが届いているはずだが、それだけで事足りるだろうか?

ロロの出した答えは否。

(ブリタニアもこの機会に攻め込む可能性があるし、性能はどうだかわからないけど中華連邦にだってナイトメアはあるよね)

色々と理由を挙げ連ねて、よし、と膝を打つ。

(僕も中華連邦に行こう)

決断に迷いや悩みはない。こみ上げる嬉しさを隠そうともせず、ロロは笑みを浮かべながらこっそり生徒会室を抜け出した。

(兄さんに会いに行く口実ができて良かった)


2008.06.11  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





ミチル      / アーニャ


アーニャはもともと、写真が苦手だった。人の意思が介在する絵画と違い、美醜に関係なくそこにありのままの真実を映し出すからだ。だが、ある一枚の写真をきっかけに、その考えはがらりと変わることとなった。
軍人であったころは閃光と称えられた皇妃マリアンヌから貰った、彼女の息子だという皇子の写真。にこりと近しい者に対して向けられる微笑みがそこには映っていた。写真という記録手段にこれまでとは違う感覚が芽生えたことは今でもありありと覚えている。ありのままという言葉の響きも、まったく違って聞こえた。
携帯電話を手にするようになってから、もっぱら使うのはカメラ機能だ。年配のラウンズに時に窘められるほど、アーニャはところ構わずシャッターを切る。被写体のほぼすべてが人間なのは、やはり影響を受けた写真によるものだろう。ボックスにフォトデータが溢れるたび、彼女はそれを移し変えているが、携帯の機種変をしようと持ち続けている画像がひとつだけある。それが、幼いころにマリアンヌ皇妃から貰った彼女の息子の写真をさらに携帯のカメラで撮ったものだった。それは戦場を駆けるアーニャにとってのお守りのようなもの。ふとした瞬間に携帯をいじっては、画面のなかの褪せることない笑顔を見て心を落ち着けていた。

(ルルーシュ、殿下……)

さきほど、同じくナイトオブラウンズであるスザクが「ルルーシュ」という名前を出した画像を見つめる。
先入観や感情を抜きにしても、ふたつの写真に写っている人物は同一の人間のように思えた。

(生きてた?)

だがそれならどうしてスザクはルルーシュ殿下の生存を報告しないのだろうという疑念が湧く。殿下の妹であるナナリー皇女は皇族に復帰しているのにだ。そのうえ彼女は実の兄のゆくえを知らぬという。
写真のなかの黒髪の少年は、いつだかスザクが着ていたものと同じ制服を着ていた。ふたりが知り合いだということはスザクとミレイの間で交わされた会話からも明らかである。

スザクに問いただすのが先か、ナナリーに報告するのが先か、アッシュフォード学園を訪れるのが先か。アーニャは慎重に考える。

(ああ、でも)

写真のなかで柔らかい微笑みを浮かべていた少年が今も生きているかもしれないという事実がじわりと心を満たす。天帝八十八陵をまえに、今日のモルドレッドはこれまでで一番の動きを見せることが出来るかもしれないと思い、アーニャはかすかに口角をあげた。


2008.06.17  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





孤独という名のベッド      / ロロ→ルルーシュ(turn1以前)


「おやすみロロ、よい夢を」
耳障りの良い声とともにふわりと軽いキスが降ってくる。唇はちょんと額に触れるとすぐに離れていった。ロロにキスを施した人物もまた、同様に彼から離れ、自室へと戻っていく。その背中にロロは声を掛けた。
「おやすみなさい、兄さん」

眠りにつく際におやすみなさいのキスを相手に贈ることは、欧米ではいたって普通の出来事。だけどそれが、兄弟といえど男子高校生同士となると、普通という言葉では括れない。
監視対象である期間限定の兄の唇が触れた額を撫で摩りながら、不思議そうに首を傾げる。一般家庭の兄弟の間でも、おやすみのキスは交わされるものなのかどうか。普通一般とは程遠い生活を送ってきたロロにはまったく分からないが、兄であるルルーシュが能動的にやっていることだから、おそらく拒絶しないほうがいい。そうやってロロは納得していた。
だけどそれにしたってと思いながら、嬉しさや羞恥がないまぜになった複雑な気持ちでベッドに横になる。だがそこで唐突にあることに気づいた。

(そうか、彼は妹に贈っているんだ)

十代後半の兄弟の間で交わされるおやすみのキスにルルーシュが違和感を持たないのは、記憶を改竄された今でも、妹に贈るつもりでそれをしているからなのだろう。伝わった唇の熱さは自分に贈られたものではなく、消えた記憶のなかに存在する少女に贈られたものだ。

(今ここにいるのは、僕なのに……)

温かかったはずの気持ちが急激に冷めてゆく。

それなのにキスを受けた額は熱を持ったままだから、余計に寂しさが感じられてしまう。押し寄せてくる感情を振り払うように、ロロは冷たいシーツを掻き抱いた。


2008.06.19  Yu.Mishima





--------------------------------------------------------------





大事なものは目蓋の裏      / ナナリー+アーニャ(turn7〜8?)


これからはなるべく記録に残らないように、人の記憶に残らないように心がけて生活をしなくてはいけないね。
「……ごめんなさい、お兄さま」
なんでナナリーが謝るの?
「だって、私の目と足のせいで……」
それは違うよ、ナナリーのせいなんかじゃない。ブリタニアがブリタニアである限り、僕たちは日陰で生きていくしかないんだ。
「でも、私がいなければ、お兄さまはもっと上手に生きられるはずです。記録にも記憶にも残らないような寂しい生活なんて……」
大丈夫、そんな心配は必要ないよ。
大事なものは目蓋の裏にあるから。
「目蓋の裏?」
そう。どの記録にも誰の記憶にも残らなくても、僕の頭は全部覚えて、それを目蓋の裏に刻んでいく。だから目を閉じると浮かんでくるんだ。寂しくなんてない。僕のそばにはナナリーがいるし、大事なものは全部ここにあるから。

話がアーニャの趣味に触れたとき、彼女はなんとなく総督である皇女に尋ねた。あなたは写真を持っていないのかと。そこに他意はない。尋ねられた本人、ナナリーもその声に悪意を感じなかったから、素直に答えた。写真は一枚も持っていない、けれど目蓋の裏にそれはあるのだと。
「目蓋の裏……?」
「はい」
不可解さがありありと感じられるアーニャの鸚鵡返しに、ナナリーは微笑みながら頷いた。
「だから写真などなくても良いのです。すべて、目蓋の裏に隠してありますから」


2008.06.19  Yu.Mishima


2008.05.19-06.19 Yu.Mishima