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ベッドの下にはstage9.726        / C.C.+ルルーシュ



突然の来訪者に驚き焦ったルルーシュによってベッド下に押し込まれたC.C.は、あることに気づいた。
(埃がまったくない)
メイドの咲世子がいるので時間のないときは彼女に任せてしまうが、基本的に家事は出来うる限りルルーシュ本人が行っている。さらに、ギアスの力を得てからは自室に人をあまり入れなくなった。
(騎士団の活動に情報収集、学園での生活と忙しいはずのなに、いつの間に掃除を?)
ベッドの下なんて埃がひじょうに溜まりやすい場所で、掃除はしにくいと悪条件が揃っているというのに。そのうえ掃除をしているのは部屋の主である男子学生である。
こまめに掃除が行われているらしい部屋の様子に、改めてC.C.は愕然とした。

「ルルーシュ、おまえたとえ王になれなくとも立派な母になれると思うぞ……?」
「なに寝ぼけたこと言っているんだおまえは」


2008.05.02  Yu.Mishima





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安全圏stage12.70      / シャーリー→ルルーシュ+ニーナ


「そうだニーナ、エリア11の地質に関する書物なんて持っていないか?」
ルルーシュは何かを思い出したように、パソコンに向かっていたニーナに話しかけた。
「何冊か持ってるけど……どうして?」
生徒会メンバーには慣れているとはいえ、いつもは突然の呼びかけに対してどぎまぎしてしまうニーナも、ルルーシュの発言の内容が内容なだけにスムーズに返事をしている。
「ちょっと最近興味があってね」
「へえ、本当? こういう分野って、興味持つ人ってあまり周りにいないから嬉しい。エリア11の地質って他の国と比べて特殊でね――」

にこにこと嬉しそうに話すニーナとそれに相槌をうつルルーシュを目にして、シャーリーはひとり焦燥感に駆られていた。
(うそ、ニーナだけは絶対大丈夫だって思ってたのに……!)


2008.05.02  Yu.Mishima





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カウントダウンは始まっていた      / C.C.+ルルーシュ


(こいつ、本気で分かっていないのだろうか?)

救出事件もひと段落した夕暮れ。総領事館内でルルーシュとふたりきりになったときに「ナナリーの居場所を奪った憎き偽の弟であるロロをさんざん利用して切り捨ててやる」と打ち明けられたC.C.の率直な感想だった。
最初は動ける駒扱いだった、黒の騎士団、カレン、そしてC.C.。せいぜい上手く利用してやるよ宣言をしていたのはどこの誰だったか。結局今回も捕らえられていた黒の騎士団を単身救出に現れた。C.C.はルルーシュに「そう宣言したもののなかで本当に切り捨てたものなんてあるのか?」と言ってやりたい気分だった。
結局ルルーシュは、生来の気質ゆえか、一度懐に入れてしまったものには甘いのだ。そして己を純粋に慕ってくるものにも弱い。
大事な妹に関することだから微妙なところではあるが、偽の弟に絆されるのも時間の問題だとC.C.は結論づける。

(なにせルルーシュは得体の知れない女に気を許すのに、そこまで時間がかからなかった)


2008.05.02  Yu.Mishima





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すききらい      / カレンVSロロ


「あんたルルーシュのどこが良いって言うの? ホンっト趣味悪い」
「あなたこそ、ゼロなんかのどこが良いって言うんです? 理解できません」
「ゼロを馬鹿にしないで、捻り潰されたいの?」
「兄さんを悪く言うなら、容赦しませんよ?」
ルルーシュなんてあーだこーだ、ゼロなんてあーだこーだ。
紅蓮弐式のパイロットとヴィンセントのパイロットが顔をあわせれば必ず始まる口げんか。騎士団内でそれは名物と化している。すでに両手では数え切れないほど行われてきたが、言葉は尽きないらしい。
無尽蔵に出てくる悪口を、ルルーシュでありゼロである当の本人は遠くのほうで聞いていた。その背中はどこか切ないものがある。
「おまえ本当はふたりに嫌われているんじゃないか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるC.C.に、ルルーシュはすぐさま「そんなことない!」と返した。


2008.05.02  Yu.Mishima





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逃走劇はきっと50メートルでピリオド      / ミレイ→ルルーシュ


この1年で自分はずいぶんと諦めの悪い女になったなとミレイはため息をついた。
家を再興するための結婚はアッシュフォードのひとり娘であるミレイの義務だと彼女自身も納得していることだが、それを先延ばしにするためこうして学園に残っている。

(あーあ、誰かさんが浚ってくれればいいんだけど!)

すっかり諦めていたはずの思い人の顔が頭のなかでちらつく。結婚の話をされるたびに彼の顔が浮かぶということは、口ではどう言おうと、結局諦めきれていないということだ。ミレイもそんな自分の心中をよく理解していて、ふんぎりがつかずにいる自分のらしくなさに思わず苦笑する。

(映画みたいに、花嫁を奪い去りにきたりしないかしら?)

そうしたら自分は迷いを捨てて彼だけについていくのに。

しかしミレイは、彼はそんなこと絶対にしないんだろうなあとも思う。
いやいや、それ以前に、あの彼が相手ではすぐに追っ手につかまってしまうということが目に見えているではないか。たとえ車を用意していても、乗り込む前に取り押さえられること必至だ。走る距離が延びれば延びるほど失敗する確率は高い。

(まさか私にまで追いつかれてしまうなんて!)

4人の人間にあっさり追い抜かれて呆然としているルルーシュをしり目に、ミレイは自分の想像の可笑しさに笑い声をあげそうになっていた。


2008.05.08  Yu.Mishima





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とある家庭の台所での一幕      / ルルーシュ+ロロ(turn1以前)


くるくると野菜の皮を剥いている弟の手元を見て、ルルーシュは「器用なもんだな」と無意識に呟いた。足元に落ちている皮はどれも長く、正確に言えば、ひとつの野菜に対して1本の皮しか出していない。
「兄さんだってこれくらい出来るじゃない」
「そうしようと意識してすれば、それなりにな。おまえみたいに十割の確率で出来るわけじゃないよ」
そう言うルルーシュの足元にも同じように長い皮が落ちているが、確かにそれはロロが作ったものほどの長さはない。料理の腕に関してミレイ会長はさておき、他の追随を許さなかったルルーシュは、少しばかりそれを口惜しく思う。もちろん顔には出さなかったが、弟には見抜かれてしまったようで、苦笑を返されてしまう。
「いいでしょ、僕にだって料理の面で兄さんより得意なものがひとつくらいあっても」
「俺はおまえの兄なんだぞ、弟に負けてどうする」
「兄さん、乗馬以外の運動では僕に全敗してるよ」
「……………………」
「力仕事は、まあ差はあまりないけど、そういえばパン生地を捏ねるのも僕のほうが上手だったよね?」
「……………………」
「兄さん?」
「……そんな風に言うんだったら、今度からパンを作るときは発酵までの作業を全部おまえに任せることにする」
「え?」
大人気ない物言いに、ロロの目がきょとんと丸くなった。しかしルルーシュはそれに構わずに言葉を続ける。

「もちろん拒否権は与えない。いつどこに居ようと、おまえの都合が悪かろうと、俺が呼び出したときは必ずそれに応じろよ。たとえ五年後だろうと十年後だろうと、俺がパンを作るときは絶対におまえを呼ぶからな」

びしっと人差し指を向けながら、ルルーシュはあくどい笑みを浮かべてそう言い放った。さぞ弟は微妙な顔をしていることだろうと思って視線を向ける。しかしロロが浮かべていたのは、諦観やら喜色やらがごっちゃになった、予想していたよりもずっと複雑そうな表情だった。

「……ロロ、どうしたんだ?」
「え、あ、ううん……そんな何年も先まで兄さんのパン作りに付き合わされるなんて、って思って……」

苦笑する弟は普段とあまり変わらない様子だから、ルルーシュは過保護すぎる性格をひっこめてニヤリと笑うにとどめる。

「覚悟しておけよ?」
「――うん」


2008.05.08  Yu.Mishima





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たくない      / ロロ(→ルルーシュ)


(兄さんがここに帰ってきたときに、僕は「おかえり」って言えるのかな……)

現在黒の騎士団にはフロートシステムを搭載した機体は一機もない。今回は太平洋で奇襲をかける作戦だから、海上の移動はナイトメアフレーム搬送機にゆだねるしかないのだが、それもあまり数があるわけではない。必然的に、今回は少数精鋭で向かうことになった。
そのためロロは自室で留守番をしている。誕生日に貰ったロケットを開けたり閉めたりしては、落ち着かない気持ちを募らせていった。

(兄さんがここに帰ってくるとき、そのときはきっと妹も一緒だ。そうしたら、ここは僕の居場所じゃなくなる)

そこからどくように言われたらどうしよう。

想像しただけでロロの心臓は痛んだ。
ただ待つだけというこの状況は辛いが、奇襲作戦に同行せずに済んだのは幸いかもしれないと息をつく。
ナナリー皇女奪還が成功するところなど目のまえで見てしまったら、自分の心臓はその瞬間に止まってしまうのではないかとロロは思った。


2008.05.11  Yu.Mishima





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られない      / ルルーシュ


大切なものを守ることさえ、この世界ではままならぬことを、ルルーシュは幼い時分に母を失うことで身を持って知った。
だから大切なものは最小限にとどめた。あれもこれも大切だと両手で抱えていたら、なにひとつ守ることが出来ないと分かっていたからだ。人ひとりが支えられる重さなんて高が知れている。
だからこそ、そうでないものに容赦はしない。大切なものを守ることも満足に出来ないのに、そこまで気を配っていてはいつ足を掬われるかしれない。非情は必要だ。
そうやって、精一杯、ルルーシュは大切なものを守ってきたつもりだった。

だけどルルーシュは再び、自分の両手から大切なものが零れ落ちてゆくのをこの目で見た。

(ナナリー……)

結局自分の手は誰かを殺すことは出来ても、誰かを守ることも救うことも出来ないのだと痛感する。

紅蓮の手のなかで、ルルーシュはいま自分が呼吸出来ていることを不思議に思った。


2008.05.11  Yu.Mishima





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サジタリウスの弓矢      / ロロ→ルルーシュ


天上の蠍座が暴れ出したらすぐに射殺せるようにと、射手座は常に弓矢を構えている。
それは、記憶を取り戻した兄さんが僕の動向を窺っているのととても似ていた。正体が知れてしまった今、兄さんが僕に向けるのは純粋な愛情じゃなく、いつでも引ける弓矢だ。見えない矢じりはいつも僕の頭を狙っている。たぶん兄さんにとって都合の悪い人間になった途端に、その手は容赦なく離されるのだろう。
でも、本当の蠍座の少女には、きっと矢を射るどころか構えることすらしないに違いない。

(たとえゼロを否定されても)


2008.05.17  Yu.Mishima





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椅子とりゲーム      / ロロ→ルルーシュ


僕が椅子から立った途端、きっと兄さんは代わりの人間をそこに座らせるのだろう。今の兄さんにとっての僕は、他の人間でも代わりのきく存在だ。
でもきっと本当の妹のナナリーの椅子は、たとえ彼女が目の前からいなくなろうと空席のまま、ずっとそこにあるに違いない。その椅子は彼女のためのものだから、永遠に彼女以外は座れない。
立てば誰かに席を譲ったことになってしまう僕とは大違い。

(兄さんの用意してくれた、僕だけの椅子が欲しいな)

それは過ぎた願いなんだろうけど。


2008.05.17  Yu.Mishima


2008.05.02-05.17 Yu.Mishima