悲しい話はもうたくさん! 1



01    シャーリーとルルーシュ/turn14冒頭後


「カーット! オォーケ〜イ!」
方々から拍手が沸き起こり、血溜まりに身を横たえていたシャーリーはぱちりと目を開いた。
すぐそばに寄ってきたルルーシュが差し伸べてきた手に、自然とおのれの手を重ねると、ゆっくり引き起こされた。動きに合わせて血に似せた赤い液体が音を立てる。衣装もシャーリー自身の髪も濡れて真っ赤だ。同じく、シャーリーの顔もルルーシュの顔も上気して真っ赤になっている。張り詰めていた糸が切れ、血が一気に頭に上ったらしい。ついふたりして戸惑ったような表情で顔を見合わせてしまう。
「終わったの……?」
「ああ……」
立ち上がったふたりに再びあたたかい拍手が送られた。良かった、おつかれさまなどの声も一緒に上がる。ルルーシュの口から出てきたのも賞賛の言葉だ。
「おつかれさま、シャーリー。すごく良い演技だった……」
涙を浮かべた状態で微笑むものだから、目の端から涙がぽろりと零れ落ちる。それを見たシャーリーもまた感極まったのか、止まっていたはずの涙が溢れ出した。
「これでクランクアップなんてやだよー!」


* * *



「第1シーズンのときの、ユーフェミアさんの気持ちが今分かった……」
シャーリーとルルーシュの出番はもう終わったのだが、ふたりともこのあと仕事は入っておらず、この現場も最後なんだから今日の撮影には最後まで付き合いたいというシャーリーにルルーシュも付き合って残っているという次第だ。

一昨年秋から昨年春まで放送されていた深夜ドラマ「コードギアス 反逆のルルーシュ」は、第1話から大きな反響を呼び、話の収集がつかぬままに幕を閉じた。予想以上の視聴率の良さに局側から打診があり、制作途中で第2シーズンが決定したためである。
最近では珍しい2クール25話という長さ。そしてユニークな登場人物たちと、それらを演じる多彩な顔ぶれ。ピカレスクロマンという、これまでにないジャンルを打ち立てた人気ドラマ。第2シーズンも順調に撮影が進み、ちょうど話の折り返し地点にまで来た。
だがシャーリーとしては、こんなに順調に進まなくても良かったのに、というのが正直な気持ちだ。
第1シーズン中盤のときに監督からこっそり「シャーリーは死ぬ」と聞かされていて、無事にステージ25まで生き抜いたことに安心していたのに、結局ターン13で最悪の形で退場することになってしまった。最期を思い返して、シャーリーの目にじわりと涙が滲む。

「悔しくて悲しくて仕方ないの。私もこの作品と最後まで付き合いたかったよ……」

第1シーズンのラストで劇的な死を迎えたユーフェミアは、こんなところで役とお別れするのは残念だと嘆いていた。あのときはそんなに実感が湧かなかったけれど、今ならすごくよく分かる。そう言ってシャーリーは項垂れた。隣に腰を下ろしているルルーシュからも悲しげなため息が漏れた。
そっとその横顔を盗み見る。なめらかな頬には、さきほど拭ったはずの涙の跡があった。少し伏せられた睫毛にも涙の粒がついてきらきらと光っている。そういえばステージ12、14の撮影のときも、帰りのロケバスのなかでルルーシュは泣いていた。役のルルーシュと違い、彼はわりとストレートに悲しいという感情を表に出す。そのことはシャーリーも共演者たちから聞いて知っていた。シャーリーというキャラクターのポジション上、ルルーシュと共演するシーンは悲しみとは無関係なものが多いが、厳しい展開への起爆剤の役割も備えているため、ストーリーの節目で悲痛な状況に追い込まれもする。そのたびにルルーシュを演じる彼がひっそりと泣くことを、シャーリーを演じる少女としては嬉しくないわけがなかった。

「ルルーシュくんとも、これでお別れなんだよね……」
「他の作品で会うこともあるさ、きっと」
「でもルルーシュくんって、活動のメインは舞台なんでしょう? 私はテレビの仕事ばかりだから、これまでみたいに会うことはできないよ……ユーフェミアさん、いいなあ」
「え?」
「お家に帰れば会えるんだもん」

第1シーズンで第3皇女役をやっていたユーフェミアは、現実の世界においてはルルーシュの双子の姉である。コードギアスがデビュー作となったルルーシュと違い、ユーフェミアは幼少のころから大量の仕事をこなしている売れっ子女優だ。

「あれ? そういえば、他局のドラマでユフィと共演するって聞いたけど……」
「うん。学園モノのホラーサスペンス」

家に帰れば会える発言の意図がきちんと伝わらなかったことにシャーリーは苦笑する。そういえばルルーシュの恋愛音痴は素だと言われていたっけと思い出した。
作品中のシャーリーのように熱い恋心をルルーシュに対して抱いているわけではないが、こうも見事にスルーされてしまうと女としては少しばかり悲しい。ただ彼の恋愛沙汰に疎いところにもシャーリーは好意を感じているので、嫌な思いはしなかった。
でも、だからこそ、別れ難いというもの。

「今度もしルルーシュくんと共演するなら、明るい話がいいなー……」

悲しい話はもうたくさん!


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ルルーシュ(弟)とユーフェミア(姉)が双子という時点で何かを踏み外している役者パロです。ブリタニア皇族は芸能一族。血縁関係は本編と全然違います。そしてドラマの登場人物の名前(ファーストネーム、もしくはファミリーネームのどちらか)はすべて、演じている役者さんの芸名から取ってます。皇族のみなさんは皆本名で活動。
ルルーシュはドラマでデビューしましたが、もともとやるなら舞台役者と思っていたので、第1シーズンと第2シーズンの間は舞台にずっと出ていました。ギアス撮影中は舞台のほうはお休み。番宣などは、作品のイメージが壊れるからと言われてどこにも出させてもらえませんでした。(双子なので、普段の雰囲気はユフィと似てます)(あくまで雰囲気)でも雑誌のインタビューなどでルルーシュの人となりはわりと世間にも知られています。






02    シャーリーとルルーシュ/turn14冒頭後


もうこれで会えなくなるかもとしょげるシャーリーに、ルルーシュは「でも、」と声を掛けた。

「特別ドラマのほうで一緒になるかもしれない」

他局の某刑事ドラマ2作品のように、コードギアスは深夜に10分程度の特別ドラマ――アナザーエピソード――も放送している。既存の2作品と違うところは、コードギアスは本編放送中から特別ドラマも撮影し、なおかつ主役たちまで出演しているという点だ。
シナリオは本編とは別の意味で破天荒だが評判は割合と良く、第2シーズンでも放送が決定し、つい先日もその第1弾が撮影されたばかりである。

「それは、……そうかもしれないけど、あれはちょっと……」

特別ドラマでは妄想暴走系少女として定着してしまったシャーリーは複雑な気持ちでいっぱいだった。
確かに本編と違って第2シーズンのアナザーエピソードは底抜けに明るいし、第1シーズンのアナザーエピソードにしたって清純派という殻を破るきっかけになった番組だ。だけどオンエアされたそれを見て、居た堪れなくなったのも事実。

にこにこと微笑んでいるルルーシュに、シャーリーは素直に笑みを返せなかった。


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SEならぬAE。スピンオフではないのです。ルルーシュとスザクもたくさん出てますしね。 ちなみにシャーリーの妄想のなかのふたりは毎回別撮りです。放送されたものを見て、シャーリーはいつも両手で顔を覆ってしまいたくなります。「ルルーシュくんとスザクさんに何させてんのよ私!」と。
年齢は、スザク(22)、ルルーシュ(19)、シャーリー(18)ですが、デビューはシャーリーのほうがずっと早いこともあってルルーシュはくん付け。ルルーシュは呼び捨てで良いと言ったのですが、結局くん付けのまま。ルルーシュは最初シャーリーのことをさん付けで呼んでいたのですが、やはり本人に呼び捨てでと言われてからはシャーリー呼び。お互い敬語を使わないほど打ち解けてきたところでマオのエピソード。ルルーシュもシャーリーも神の目視点で感情移入してしまったがために、会うたび泣いたり放送されたものを見て泣いたりしてたのですが、そこにきて第1シーズンのAE。やっぱりふたりして「監督ひどい!」と泣きました。色んな意味で。






03    シャーリーとロロ/イケブクロ駅構内シーン撮影直前


「この回が放送された直後は周りに気をつけてね」
「なぜですか?」
第1シーズンのとき、女優シャーリーのファンのなかでも過激な一部が、作中彼女の演じたキャラを追い詰めたマオやルルーシュに対し、かわいい悪戯ではすまないことをしでかした前例がある。実際に数人は警察のご厄介になっていた。
「だからたぶん、ターン14が放送されたらロロくんも危ないと思う……」
首をひねるロロに、シャーリーは苦い顔で説明する。だがロロはいたって冷静に分かりましたと頷くだけだった。表情すら変化しない。
「ロロくんて、自分の役に対する視聴者の反応って気にならないの?」
考えるような素振りもなく、すぐさま「そうですね」という言葉が返ってくる。
「僕が気にするのは兄さんの反応だけです」

あ、第2シーズンから参加のキャラクターも、やっぱり当て書きだったんだ。

ロロの迷いない発言を聞いて、シャーリーは神妙な顔つきでうんうんと頷く。
残念なことに、このふたりにツッコミを入れる人間はここにはいなかった。


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「悲しい〜」におけるギアスは監督(兼脚本)による当て書きです。と言いましても、「ルルーシュ→記憶力が良い→長台詞多い」レベルです。その人間の本来の性格等は当てはめず、この役者ならこういう演技が出来るという監督の期待やら独断やら趣味やらによって作品は作られました。監督はシャルルです。お父さまです。俳優から監督へ転向した人なので、皇帝も自分でやっちゃいます。最近周りの人間に「自分の息子と共演したいがためにこの作品を作ったんじゃなかろうか」とつっこまれていますが、大体その通り。
ロロ(15)はシャルルの従兄弟の息子です。なのでルルーシュとは又従兄弟の関係。生まれてすぐに母がなくなり、父子家庭で育ってます。また父親が海外出張の多い身で、よくシャルル宅に預けられていました。ユフィたちも仕事で家にいないことが多いので、必然的にひとりお留守番中のルルーシュがロロの面倒を見ることに。ルルーシュは末っ子なので、弟ができたと喜び、ロロのことを作中のナナリーを相手するみたいに可愛がってました。
ですが、ロロの起用理由はべつに「兄さんが一番!」なところではないです。半分はそれですけど。ちなみにロロはギアス第2シーズンで芸能界デビューですが、芸能界での仕事はこれが最初で最後と思っています。






04    カレンとスザク/turn14対峙シーン本番前


「ルルーシュに会いたい……」

このままじゃ禁断症状が、などとぶつくさ文句を言ってくる男を、カレンはぐーで殴ってやりたくなった。

「あのねえ、あんたこの間のロケで一緒だったんでしょ? 私なんて中国ロケが最後よ。しかもこの通り捕まっていて、ギアス嚮団襲撃シーンに参加できませんからね、彼より一足先に戻ってきたわ。そんな私を目の前にしてもまだ言う気?」

「君と比べてもしょうがないだろ。たとえカレンがルルーシュと何ヶ月も会っていない状況でも、僕は数日会えないことを嘆くね」

このあとの本番で、スザクがリフレインを出した瞬間にその顔を殴ってやろうかとカレンは半ば本気で考えた。


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カレン(22)とスザク(22)は同期の悪友(というか口喧嘩友達?)です。 他にも共演作がいくつかありますが、どれもアクションがすごいものばかり。好みのタイプが似ているため、共演するたびに構う相手の取り合いになります。ギアスの現場ではルルーシュ。ふたりとも行動力があり積極的でもあるので、初顔合わせのときにメアド交換をし、第1シーズンが終わってからもメールのやりとりは続いてます。
第2シーズン序盤はカレンのほうがルルーシュとの共演シーンが多かったため、スザクはさんざんカレンにざまーみろと言われていましたが、中盤に来て逆転したため今度はスザクがカレンにざまーみろ……と言いたいところなのに、逆転はしても共演シーンはやはり少ないので遠回しな言い方なのです。






05    カレンとナナリー/turn14撮影終了後


「どうせなら兄トーク、してみたかったですね」
残念そうなナナリーに、カレンはそうよねえと返す。あのタイミングでスザクが乱入してくることは台本とリハーサルで分かりきっていたことだが、それでもどこか苛立ちが湧くから不思議だ。
「あれ? でもナナリーちゃんって確かひとりっこよね? ルルーシュは従兄なんだっけ?」
そういえばとカレンが訊ねると、ナナリーはにこりと微笑んだ。
「はい。本当のお兄さまだったら良いのにって、いつも思います」

「それ、分かるわ」

カメラが回っていないところでのルルーシュの様子を思い浮かべると、カレンは大きく頷くのだった。
だってカレンもあんな弟欲しいと常に思っているのだから。


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ナナリー(14)はCMタレントとして3つ頃から活躍、7つのときにドラマ初出演以来、映画にドラマに引張りだこの売れっ子女優です。従兄のルルーシュとは年に数回会う程度でした。共演してからは普段でもルルーシュのことを「お兄さま」と呼んでいます。ちなみにナナリーの父はオデュッセウス。ギアスでは兄妹役になったので、家で顔を合わせたときについ笑ってしまいました。オデュッセウスはシャルルの年の離れた弟です。末弟。末っ子はさらに幾つか年の離れたギネヴィア。2年前に結婚してからは芸能界から遠ざかっていましたが、ギアス第2シーズンで女優復帰。
「悲しい〜」のルルーシュは年上の人間からは「弟にしたい」と思われ、年下の人間からは「兄に欲しい」と思われる子です。末っ子のために生まれつき備えている弟属性+母を9つのときに亡くして以来身についた母属性+対ロロで培ってきた兄属性で周りみんなメロメロ。家事能力は作中のルルーシュと同等です。




2008.07.20 Yu.Mishima