ローラーコースター4
12 : 現場が混乱してきました
「ロロ!」
突然現れた救世主、もとい弟の姿を目に留めて、緊張の糸が切れたのかルルーシュの身体から力が抜ける。
「兄さん、今のうちに早くこっちへ」
足を縺れさせながら急いでロロのもとへ走り寄ると、その背中へ回り込む。兄の無事を確認したロロはそこで絶対静止の結界を解いた。
範囲内の人間の時間が再び動き出す。
「……ルルーシュ?」
突如目の前からルルーシュが消えたことにスザクは怪訝な声を上げるが、すぐさま背後の気配に気づいて振り向いた。
15メートル先にはルルーシュとロロの姿がある。さっきまで目の前にいた人物の瞬間移動したうえ、いなかった筈の人間が現れた。このふたりのうちのどちらかが何かをしたのは一目瞭然だ。
「――これはどういうことかな?」
「そういえば言ってませんでしたけど、僕もギアスユーザーなんです」
いまだ笑顔を貼り付けたままのスザクに怯えるルルーシュを庇うように、ロロが代わって質問に答える。ギアスユーザーの言葉を聞いてスザクは目を瞠るが、色々と得心がいったようで「そうか」と頷いた。そして人好きのするにこやかな笑みを取り払い、ふたりへ冷笑を向ける。
「ふたりきりで会おう――って約束したはずだけど?」
「僕が勝手についてきただけですから、兄さんは約束を破っていませんよ」
「人の背中に隠れるなんて卑怯だと思わないのか君は」
「兄さんを怯えさせている張本人が何寝ぼけたこと言ってるんですか」
「……偽者の弟はちょっと黙っていてくれないかな。僕はルルーシュと話がしたいんだ」
「……兄さんは話したくないようですよ。これくらい察してください」
なんだか雲行きの怪しさが別方向へ行っている気がするとルルーシュが首を傾げるころには、ふたりは一触即発の空気を作り上げていた。
13 : 試合?は混戦模様となっています
「そこから退くんだ、ロロ・ランペルージ。ルルーシュをこっちへ引き渡せ」
「ハッ。退くわけないでしょう。嬲り殺しにするとかほざいてる危ない人間に兄さんを差し出すと思いますか?」
「不死身なんだから問題はないよ」
「傷つける意思があること自体問題です」
「それに彼は犯罪者だ。罰は必要だろう?」
「犯罪者を裁くのは法であって個人ではありません」
苛立ちもあらわに言い争うふたりをまえに、ルルーシュはただ戸惑うばかりだ。完全に置いてけぼりの状態であるが、何らかのアクションを起こせばたちどころに矛先がこちらへ向きそうな確かな予感があるために身動きも取れない。
こんなことなら最初からカレンなり咲世子なりを近くに待機させておけば良かったと後悔するが、カレンは海上でブリタニア軍と戦っているし、咲世子は政庁付近に潜んでいる。今更呼び寄せることなどできない。これは完全にルルーシュの落ち度である。
(しかしこんな事態、誰が予想できただろうか……)
俺の想像力をもってしても無理だ。ルルーシュがそう自嘲している間も、ふたりの口論は続いていた。
14 : 何か恐ろしいことが始まってしまった気がします(終わりのない鬼ごっことか)
20分に及ぶ口論がひと段落し、境内に再びの静寂が訪れる。激しい応酬だったというのにスザクもロロも息ひとつ切れておらず、むしろ聞いていただけのルルーシュのほうが疲れていた。
「もう帰ろう兄さん」
兄の疲労に気づいたロロが声を掛けるが、もちろんスザクがそれをあっさり見逃すわけがない。
「帰るならひとりでね。ルルーシュは置いていくように」
「……あなたも大概しつこいですね」
「君ほどじゃないさ」
「いえ、あなたには負けます。それに、いくら執念深く兄さんに付きまとっても、いずれあなたは年老いて死ぬ運命ですから、早いうちに諦めたほうが自分のためですよ」
「それは君にも言えることじゃないか」
スザクの嘲笑に、ロロは溢れんばかりの笑顔を返した。
「いいえ、僕もそう遠くないうちに不老不死になる予定があるので、心配無用です」
「なっ……――!」
驚愕して思わず言葉を失うスザクにロロは勝ち誇った表情を向ける。そしてアクションを起こされる前に、絶対静止の結界を発動させた。
「そこらじゅうにブリタニア軍が身を潜めてるから気をつけて」と言うや否や、ロロはルルーシュの手を取り走り出す。
混乱から抜け切らぬルルーシュはそれでも、(結局ギアスでこの場を切り抜けるなら、なにもスザクと言い合う必要はなかった。ということは、最後の台詞が言いたかっただけということになるが……)と考えを巡らせ、やはり理解できないスザクとロロの言動に首をひねるのだった。
end.
2008.08.09-08.10 Yu.Mishima