rivendicazione番外編



(解せない……)

姿見に映る自分の姿を見て、僕は思いきり首を捻る。そこには半袖のセーラー服を着た顰め面の女の子が立っていた。白い上着に紺色のプリーツスカート。白線が二本入っている襟や袖口、それに胸当てやスカーフもスカート同様紺色という、割とどこでも見られるごくごく一般的なセーラー服である。けれどなぜかスカートの丈が異様に短かった。僕が通っている来良の学校指定の制服並みに短い。平均よりも十センチは長い丈で仕立ててもらった制服を着用している僕にとっては泣きたくなるような短さだ。そのうえ普段は真っ黒なタイツで覆っている太腿が一部剥き出しになっている。用意されたのがオーバーニーソックスだったから、それを穿くしかなかった。
そう、今現在僕が身に付けている物はすべて折原臨也さんが用意した物だった。

なぜこのようなことになったのかというと、話は今朝に遡る。

今朝、僕は臨也さんにサンシャインに呼び出された。そして訳も分からぬまま、ゴールデンウィークで賑わう水族館に連れて行かれた。水族館を楽しんだ後はお洒落なお店でちょっと遅めのランチを取り、映画館で僕が観たかった映画を観て、ゲーセンで少し遊んだ後にもう一度サンシャインに戻って今度はプラネタリウムに連れて行かれた。最後はこれまたお高そうなお店でディナーで締め。費用はすべて臨也さん持ちだ。
臨也さんが好き勝手に僕を連れ回すのはこれが初めてのことではなかったけれど、さすがに怖くなって尋ねた。
どうかしたんですか、と。
すると臨也さんはにっこり笑ってこう答えた。「今日は俺の誕生日なんだよね」
「え! ?」
「誕生日だから、今日一日帝人くんとデートしたいなって思って。俺たちちゃんとしたデートしたことなかったからさー。いやあ今日は余計なのと遭遇しなくて本当に良かったよ。おかげで誕生日を心から楽しんで過ごせた」
僕は青ざめた。今日が誕生日という人に僕は一体いくら支払わせてしまったのだろう。臨也さんは僕よりずっと年上の社会人で、僕を強姦した犯罪者ではあるけれど、本来なら祝われる側の人にお金をたくさん使わせてしまったという事実が僕に重く圧し掛かる。
申し訳なさそうな僕の顔を見て「俺が勝手に君を連れ回したんだから気にしないで」と臨也さんは言った。
もしかしたら臨也さんは分かっていたのかもしれない。そういう風に言われると余計に気にしてしまう僕の性格を。

「あの、僕に何か出来ることありませんか?」

その迂闊な発言の結果が、セーラー服である。

しくじった。僕は何て馬鹿なことを言ってしまったんだ。
後悔先に立たず。
ちょっと動いただけでスカートの中が見えてしまうのではないかとそわそわしながら鏡の前で自分の格好をチェックしていたら、扉を軽くノックする音が聞こえてきた。
「帝人くんまだー? 早く出て来てよ」
扉の向こうから催促され、僕は覚悟を決めて部屋から出る。とはいえ、やっぱり堂々とは振舞えない。
スカート丈がどうしても気になってしまい内股気味でもじもじする僕の姿を、ちょっと離れたところから臨也さんがご満悦の表情で見つめてくる。
「あの、あまりじっくり見ないでください……」
ただでさえ恥ずかしいのに、臨也さんに舐めるように見られて顔から火が出そうだ。
「まさかちゃんと着てくれるとは思わなかった」
「着なかったら臨也さんが無理やり着せるんでしょう?」
「当たりー」
「ていうか何でセーラー服なんですか?」
楽しそうな様子の臨也さんに、僕はそもそもの疑問を投げかける。コスプレなどには興味がないように見えるのに、なぜこんな服を持ち出してきたのか不思議だった。
「ん? ああ。帝人くんの中学時代のセーラー服姿は見たことあるんだけど、じっくり見たことはなかったなと思って」
「いつどこでどうやって見たんですか!?」
「企業秘密です」
同級生の誰かから卒業アルバムでも買い取ったのだろうか。なぜ夏服なのかも訊きたかったのだけれど、ろくな答えが返ってこない気がしてやめた。
「しかしさ……」
臨也さんが僕の足を見つめながら近づいてくる。
「絶対領域とか今まで全然興味なかったんだけど、これはこれで結構いいね。帝人くんは普段脚隠してるから余計そう思うのかな」
そう言って臨也さんは露出した僕の太腿に手を這わせた。スカートの裾が少しめくれ上がり、僕は素っ頓狂な悲鳴をあげた。咄嗟に飛び退こうとしたのだが、臨也さんがすかさず僕の腰に手を回してきたため逃げることは出来なかった。臨也さんはそのまま僕を引き寄せて抱き締める。そしてうしろに回した手で太腿の内側を撫でてきた。情事を意識させる手つきに僕の身体が無意識に震える。
「せ、せくはら……!」
そう訴えると臨也さんは「ええー?」と笑ってスカートの下に手を突っ込み、下着越しにお尻を柔く揉んできた。
「!?」
声にならない悲鳴が僕の口から飛び出ても、臨也さんは手を動かし続ける。あまつさえ、「このまましてもいい?」と言い出してきた。
「嫌です!」拒否したところで無駄なことは重々承知しているけれど、言わずにはいられない。
「そっ、それ以上はやめてください!」
「やーだ」
臨也さんはにやにや笑いながら割れ目をなぞり、自分の下半身を僕に押し付けた。
ああもう、僕は本当になんだってあんなことを言ってしまったのだろう……。


2012.01.12 Yu.Mishima (初出:paper#2、2011.08.21)