そういう星の巡り合わせ サンプル
newly married couple 冒頭部分
ぴかぴかの真新しい鍵をポケットから取り出し、落ち着いた暗色の扉を開ける。たったそれだけの行為でスザクはなんだかそわそわとしてしまう。クリスマスの朝、枕元にあったプレゼントを開けるときのような感覚だ。まるで子どものようだけど、こういったシンプルな感覚はいくつになろうと変わらない。
ふへっ。
だらしない笑みが口許からこぼれる。
騒ぐ心をなんとか落ち着かせ、「ただいま」と言いながらドアチェーンまで掛けてしっかりドアを施錠した。大概だらしないと言われるスザクの、ここ最近になって身についた習慣である。実家で暮らしていたときはそういった類いのことはすべて数多くいるお手伝いさんたちの仕事であったし、少しの期間ではあったのだがひとり暮らしをしていたときは、出かける際は別として、部屋にいる間鍵をかけておくなんてことをスザクは一度もしたことがなかった。なにせ男の一人暮らしだ。危険を感じることなんてそうそうなかったし、たとえ誰かが押し入ってきても倒す自信があった。それも一撃で。たとえそれが凶悪な殺人鬼であってもだ。(そんな人物がマンションの一室に突然飛び込んでくる可能性など限りなく低いが)
その自信はもちろん今でも健在であるし、天井知らずの自信に見合うだけの実力も持っている。それでも律儀に帰宅後毎回ドアの鍵を掛けるのは、この部屋に住んでいるのがスザクひとりではないから。
パタパタと軽い足音が聞こえたかと思ったら、玄関の正面にある扉が開いた。
「おかえり、スザク」
シンプルな黒いエプロンを纏った青年が奥からひょいと顔を覗かせた。びっくりするくらい整った顔立ちがふわっと微笑む。靴を脱いでいたスザクの顔は彼を目にした瞬間パッと明るく花を咲かせた。
「ルルーシュ、ただいま」
枢木ルルーシュ(旧姓ヴィ・ブリタニア)は法律的にも認められているスザクの奥さんであり、ふたりは新婚三ヶ月目の夫婦である。
book-06 sample 2009.10.23 Yu.Mishima